名古屋の探偵さんと、しっかりと打ち合わせをし、現地に向かったのが11時を過ぎていた。
1時間ほど現場の様子を見て、夜中突入したくらいの時間に発信器を取り付け、もう帰ってしまおうという計画。
眠くなるまで走って、途中のパーキングで仮眠しながら帰ると少しは楽だろう。
探偵の代表も、明日は昼からの出勤でいいって言ってくれてるし。
ところが、現地に着いてすぐに、問題は発生した。
30分ほど様子をみて、対象者宅の見える位置に車を止め、一度現地を離れて行動しようかどうか迷っていると、対象者宅の駐車場の電気がついた。
そこから出てきたのは、まさに対象者。
釣りの道具を車に積みだした。
確か、明日の朝早くに出発だと言っていたので、名古屋の探偵さんが現場入りするのは朝の4時半から5時の予定だと聞いている。
今動くのは非常に不味いでしょ。まだ発信器も取り付けてないし。
ぼくは、急いで連絡しようと思った。
代表に電話をするか、名古屋の探偵さんに先に電話するか?
代表に電話をするととばっちりを受けそうな気がして、名古屋の探偵さんに電話することにした。
そちらであれば、行動を教えたことで感謝されることもあるかもしれない、という甘い考えがあったかもしれないけれど。
ところが、この甘い考えもうち消されることになる。
探偵するような人は、ある程度自分というものを持っていなければならないのか、相手に理解させる強さを持っているものなのか・・・。
釣りの道具を車に積み込んでいて、その格好も今から寝ます、というような格好でもないことを告げる。
ぼくは探偵さんが急いで飛んでくるだろう、と思っていた。
ぼくの想像とは全く違い、発信器が無ければ、途中から追えないし、とりあえず発信器だけはつけておいて、ということ。
この状況であの車に発信器をつけるのは、どうかんがえても無理があるでしょ?
言葉の裏を返せば、発信器をとりつける位置にくるまで、ぼくに尾行しろ、と言っているようなものではないか。
ぼくは期待せずに代表にも電話してみる。
当然、代表も、発信器をつけてから帰ってこい、とのこと。
実質、ぼくは名古屋での調査に少しだけ参加することになってしまったのだ。
対象者は荷物を積み終えると、いったん家に入って行ったけれど、駐車場の電気をつけたままになっていた。
ぼくは、さっとつけてしまおうかと迷ったけれど、いつ出てくるかわからないこの雰囲気には耐えられなかった。
探偵はこれだから、大変なんだ。現場の状況次第で、仕事が進む、進まないが変わってくる。きっと、名古屋という土地柄に限った事ではない。探偵の仕事が時間通りに進むなんて思ってはいない。しかし、ここ最近のシナリオ通りに行かない感じは本当に、堪える…。分かってはいても、これだけ堪えるのだから、心してないなりたての新人はきっと、このモヤモヤを上手く消化出来るかどうかにかかっている気がする。名古屋での探偵の仕事が続けられるものかどうか…。
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